「おいおい、今度はなんの騒ぎだ? もう夜だというのに」



大納言が姿を現した。


蛇に噛まれてしまうのではと内心気が気ではなかった胡蝶は、「お父さま!」と叫んで父に駆け寄る。


大納言が意外そうに眉を上げた。



「どうした、胡蝶よ。珍しく慌てているようだが」


「いえ、あの、そこに蛇が」


「蛇? 入って来たのか?」


「いいえ、文といっしょに袋に入って贈られてきたの」


「なんだって? 蛇が?」



いったいどこのどいつの悪ふざけだ、と大納言は憤慨する。


そして、胡蝶の指差した先に目をむけた。



「………ん? これは………」



大納言がひょいっと蛇をつまみ上げたので、胡蝶をはじめとして、女たちが驚きの声をあげた。



「お父さま!」


「殿、あぶのうございます!」


「おやめくださいませ! 噛まれたら………」



慌てふためく女たちを、大納言はくすくす笑いながら振り返った。



「お前たち、怖れずともよい。これは、作り物だよ」


「え………?」



胡蝶が呆然として、父の手の中にある蛇をじっと見た。



「あら、まあ! ほんと、よく見たら、ただの帯じゃないの!」