そこで胡蝶は、ふと、懸袋のことを思い出した。


鱗の模様が書かれた珍妙な袋。



「………そういえば、何が入っているのかしら?」



床に置かれていた懸袋を持ち上げてみると、予想以上にずっしりと重い。


胡蝶は首をひねりつつ、ずぼっと袋の口に手をつっこんだ。


それからずいっと引き出す。



次の瞬間。



「きゃああっ!!」


「ああ、なんてこと!!」


「おそろしい!!」



女たちの悲鳴が母屋を揺らした。


胡蝶が袋の中から引き出したもの、それは、



「へっ、蛇………!」



だったのである。


胡蝶は小さく叫んで反射的に手を離し、それを床に放った。



ずいぶんと太く、長い蛇である。


燈台の灯りを受けて、ぬらぬらと鱗がきらめく。

しかも、ゆらゆらと動いて鎌首をもたげている。



「いやあっ、噛まれる! 殺される!」



後退りをして逃げようとしている侍女たちの真ん中で、さすがの胡蝶も驚きを隠せない。



「んまあ、なぜ……蛇がこんなところに? 贈り物が蛇ということなの?」



首を傾げて蛇を見つめているが、そのまわりの侍女たちの狂乱ぶりは尋常ではなかった。



「毒蛇だわ、きっと!」


「早く男衆を連れて来て、蛇を殺させて!」