「姫さま、下の句を読めば分かりますわ。

《長き心の限りなき身は》――心というのはもちろん、恋心のことですよ。

あなたを慕う心が限りのない私は、ということですわね」



「ふうん。分かったような、分からないような。なんともまあ回りくどい言い方をする御方ね」



「歌とはそういうものですから」




胡蝶は首を傾げながら歌を再び読み上げた。



「つまり、どういうこと?」



問いかけられた兵衛が解釈を披露する。



「地面を這ってでも、私はあなたのもとへ行きましょう。そして、あなたのもとに寄り添っていましょう。私があなたを恋い慕う心は、限りがないのですから」



侍女たちがおおっと声を上げた。



「なんて素敵なお歌なのでしょう!」


「いったいどちらの殿方なのかしら?」


「きっととても情熱的な御方なのね、こんなお手紙を送っていらっしゃるなんて」



伊勢中将も、大事に育てた胡蝶にとうとう夫ができるかもしれないと思い、感激を隠せないでいる。