騒ぎを聞きつけて近づいてきた侍女たちと共に、いかにも高そうな紙を覗きこむ。


そこには、流れるような美しい文字で、一首の歌が書きつけられていた。



《はふはふも君があたりにしたがはむ

長き心の限りなき身は》



胡蝶はぽかんと口を開いて、

「はうはうも………?」

と読みあげてみた。しかし、



「なあに? これ。意味がまったく分からないわ」



眉をひそめた胡蝶は、まわりに集まった女たちをぐるりと見回して、一人の年かさの侍女に声をかけた。



「兵衛。あなた、恋多き女なんですってね。殿方との歌やりとりにも慣れているのでしょう?」



兵衛は困ったように「恋多き、というほどでもございませんが」と眉を下げた。



「でも、私より多いのは確かよ。ね、兵衛、このお手紙の意味を読み解いてちょうだい」



胡蝶がそう言って文を差し出すと、兵衛は首を傾げながらじっと歌を見つめた。



「《はふはふも》というのは、這う這うも、つまり、地面を這ってでも、ということでしょうね」



胡蝶が「なるほど」と頷く。



「続きは? ええと、きみがあたりにしたがわん………」


「あなたのもとに従おう――寄り添っていましょう、ということですわ」


「はあ……。ええ? どういうこと?」



胡蝶はやはり何を伝えようとしているのか理解できず、うーんと首をひねるばかりである。