「ふむ、毛虫だけではなく、あらゆる虫を、ねえ………」



清光は何事かを考え込むように宙を見つめていたが、しばらくして、ぽんと手を打った。



「いいことを思いついたぞ。その姫君に文を送ってみようではないか!」



二人のやりとりを聞いていたまわりの貴公子たちが弾かれたように顔を上げた。



「清光どの、なにをおっしゃる」


「毛虫姫に文など……」



周囲の驚きをよそに、清光は楽しげに笑う。



「ははは、毛虫姫とはよく言ったものだ」



基常が呆れたように肩をすくめた。



「清光どのは本当に物好きですなあ」


「そうかな。いや、俺はね、大人しいだけのお人形みたいな女たちには、どうも飽き飽きしていたんだよ。話していてもつまらないだろう?」


「だからと言って、虫遊びに興じる姫など………」


「なんとも目新しいじゃないか、虫めづる姫君、なんてね」



清光はそう言って、身につけていた立派な帯をするりとほどき、なにやら細工をしはじめた。