ぽつんと一人とり残された胡蝶は、ぷうっと頬を膨らませた。



「みんな、どうして毛虫を嫌うのかしら? ふわふわして、もこもこして、蝶ちょなんかよりずうっと可愛いのに」



大好きな毛虫の愛らしさを誰にも理解してもらえず、さみしさにため息がもれる。


しかし、続々と庭から戻ってきた男童たちが手に手に捧げもっている毛虫たちを見ると、ぱあっと顔を輝かせた。



「まあまあ、今日はたくさん毛虫がいたのね! さあ、この中に入れてちょうだい」



胡蝶はにじにじと縁側に寄っていき、外からの視線を遮るために下ろされている御簾の陰から、ずいっと虫籠を差し出した。


男童たちが次々に寄って来て、ぼとぼとと毛虫を入れていく。



「あっ、今のはとても大きかったわ! だれがとってきたの?」


「おれです、竹丸です!」


「じゃあ、唐菓子は竹丸にあげるわ」



竹丸は「やったあ!」と拳を握った。


まわりの男童たちがうらやましげに竹丸を見る。



御簾ごしにそれを見てとった胡蝶は、「しかたないわねえ」と呟き、盆にのせられていた水菓子を御簾の隙間から縁側へ押しやった。



「お前たちはこれを分けて食べなさいな」



おおっと喜びの声があがる。



「いいんですか? 胡蝶姫さま。これは姫さまの菓子ですよね?」


「いいのよ、私は。この子たちさえいてくれたら、お菓子なんていらないわ」



そう言って胡蝶は虫籠の中を覗きこみ、うっとりと目を細めた。