胡蝶がおかしそうに笑いをもらして口許をおさえる。



「あらあ、いやだわ、お父さま。お婿さんだなんて! 私、まだ十四歳よ?」


「まだではない。お前と同じ年でも、もう結婚している娘はたくさんいるんだぞ」


「それは早まったとしか思えないわね。生き急いでいるんだわ。私は、結婚なんてぜんぜん考えられない」



父大納言はもどかしそうに座り直した。



「そうは言ってもなあ。ぼんやりしていると婚期を逃して、一生ひとり身ということにもなりかねんぞ。そんな人生は寂しいぞ」


「あら、そのときはそのときよ。私、虫たちさえいてくれたら、寂しくなんかないもの」



胡蝶はそう言って、ふたたび虫たちと戯れはじめた。



(やはり、この子を変えるのは無理だ)



大納言はどんよりとして立ち上がる。


それから考えを巡らせた。



(そうだ、この胡蝶の虫好きが治るはずもない。

たとえそれを隠してうまいこと結婚させたとしても、すぐにばれてしまうだろう。そうなれば、胡蝶は見捨てられてしまう。

ああ、それだけはだめだ。可愛い胡蝶をそんな目に遭わせるわけにはいかない)



ぐるぐると思い悩んだすえ、父はあることを思いついた。



(そうだ! いっそのこと、虫遊びを笑って許してくれるような、心の広い男と結婚させればよいのだ。

都は広い。風変わりな姫を好んでくれるような男の一人や二人、いるだろう。

ふつうの大人しい姫では飽き足りないという物好きな貴公子を狙えばいいのだ。

こういう変わり者の姫がいるという噂を、あえて流してみよう)