「………ふう、疲れたなあ」



いつものように政務を終えてお屋敷に戻ってきた大納言は、壷庭でわいわいと走り回っている男童たちに気づいて、そちらに目を向けた。



「お前たち、何を騒いでいるんだ?」


「ああ、お殿さま、お帰りなさいませ」


「胡蝶姫に言われて、虫を探しているんです」


「なるだけたくさんの種類の虫が見たいとおっしゃって」


「毛虫は可愛いけど歌や詩に詠まれていないので、見ていても頭を使わないのがつまらないから、歌に詠まれているような虫を見つけて来て、それを歌いなさいと」



父大納言は深々とため息をついた。



さきほど内裏で公卿たちと世間話をしていたことを思い出す。


どの公卿にも年頃の娘がいて、自然と話題は愛娘たちの結婚話になった。



やはり、良い婿を迎えるためには早め早めに動かねばならない。


一番重要なのは、娘についての良い噂が広まることである。


良い噂というのは作ることができず、悪い噂は勝手に広まっていくものだ。


美人で教養があって気立てもよい、という噂が流れれば、おのずと男たちが興味をもってくれるはずだ。



そんな会話を聞いていて、大納言は絶望的な気分に陥った。


人の口に戸は立てられぬとよく言うが、風変わりな胡蝶についての良くない噂は、どうしたところで、おしゃべりな女たちの口を介して広まってしまうにちがいない。


いや、もしかしたら、すでに広まっているのかもしれない。