それを聞いて胡蝶があわてた。



「あ、べつに、お母さまたちがつけてくださった名前に文句をつけているわけじゃないのよ?

ただ、そういう名前もありかなって。ああ、いいわねえ、名前を呼ばれるたびに虫の名を聞けるなんて!」



母北の方はどんよりと黙りこんだ。


父大納言がその肩を抱いた。




―――そんな奇妙な親子の様子を、離れたところから侍女たちが眺めていた。



「姫さまったら、本当に口がお達者なんだから。でも、困ったものよね、この虫遊びには………」


「不気味な虫なんかじゃなくって、きれいな蝶を可愛がっているお姫さまもいるのよね。ああ、そんなふつうのお姫さまにお仕えしていらっしゃるのは、いったいどんなお方なのかしら」



彼女たちは毛虫から距離をとりつつ、口々に文句を言っている。



「そうよねえ。他のお屋敷の女房たちがうらやましい。姫君といっしょにお花や蝶を愛でていらっしゃるというわよ。私たちみたいに、毛虫くさいのを見ることなどないんでしょうね」


「まったくだわ………」



年若い女たちは、主人らの耳に届かないのをいいことに、無邪気に日頃の不満をぶつけ合っている。