説得に失敗したことを嘆きつつも、なんて弁の立つ賢い娘だろう、と父大納言は嬉しくもなるのだ。


多少変わっているとはいえ、見目の麗しさは申し分ないし、

帝の妃とまでは言わずとも、有力な女御の女房などとして宮中に送り込み、

教養と人脈を身につけさせて、


最終的には、しかるべき身分の貴公子と結婚させたいものだ、と父は夢を膨らませた。



しかし、そのような政治的な思惑など知るよしもない母北の方は、ただただこの型破りな娘の行く末を案じるのみである。



「こんなふうで結婚なんてできるのかしら。もしかして一生独身? いや、だめよ、そんなの」



北の方はすがるような目で娘を見つめた。



「ねえ、胡蝶。毛虫を見るなとは言わないわ。でも、せめて他の姫君と同じように、蝶や花を愛でる心も持ってちょうだい。

ほら、蝶って自分の名前でしょ? 可愛い名前よね、本当に。おばあさまに感謝しなくちゃ。

そう思うと、蝶に愛着が湧かない?」



少しでも普通の姫に近づけようと、母は必死である。


しかし胡蝶は不満げに頬を膨らませた。



「いやよ、蝶なんてつまらないわ。だって蝶になってしまったら、もう成長しないんだもの。

それにひきかえ、虫は大きくなるし、姿も変わるし、見ていて飽きないの。

名前もせっかくだったら蝶じゃなくて、松虫とか鈴虫とか、そういうのが好かったわ」



北の方は「まあ」と嘆息する。「名前に虫だなんて!」