母北の方は、お手上げ、というように両手で顔を覆った。
「何を言っているのだか、全然わからないわ」
しかし大納言は腕を組み、うんうんと頷いている。
「やはり胡蝶はたいそう賢い娘だ。箱入りにしておくのはもったいないな」
胡蝶は昔から風変わりな娘だった。
物心つくかつかないかの頃にはすでに虫に執心していて、一日中でも虫籠の前に座り込み、じいっと観察していた。
大納言は「それほど好きなものを無理にやめさせることもないだろう」と考え、はじめのうちは放っておいたのだが、
年々執着が激しくなり、虫を直接触ったり屋敷の中に放したりと、奇行が目に余るようになってきた。
世間体も気になった。
「大納言どのの五の姫君はかなりの変人らしい」という噂が近所に回りはじめているのを知ったのだ。
その噂が都中にまわり、宮中にまでたどりついてしまえば、将来の胡蝶の結婚にも差し障りが出てしまう。
そう考えて父は胡蝶に何度も忠告をしたのだが、この頑固者の娘は、そのたびに言葉巧みに丸め込まれてしまっていた。
『好きなものは好き、というのでいっこうに構わないんだよ。しかしね、世間様は見た目が良いものを好むものだ。気味の悪い毛虫を飼って喜んでいるなどと噂されては、大変だろう』
『あら、どうだっていいわ、ひとの言うことなんて。見た目にばかりこだわるのなんて、幼稚よ。物事の本質を見抜くことこそ大切なんだから』
「何を言っているのだか、全然わからないわ」
しかし大納言は腕を組み、うんうんと頷いている。
「やはり胡蝶はたいそう賢い娘だ。箱入りにしておくのはもったいないな」
胡蝶は昔から風変わりな娘だった。
物心つくかつかないかの頃にはすでに虫に執心していて、一日中でも虫籠の前に座り込み、じいっと観察していた。
大納言は「それほど好きなものを無理にやめさせることもないだろう」と考え、はじめのうちは放っておいたのだが、
年々執着が激しくなり、虫を直接触ったり屋敷の中に放したりと、奇行が目に余るようになってきた。
世間体も気になった。
「大納言どのの五の姫君はかなりの変人らしい」という噂が近所に回りはじめているのを知ったのだ。
その噂が都中にまわり、宮中にまでたどりついてしまえば、将来の胡蝶の結婚にも差し障りが出てしまう。
そう考えて父は胡蝶に何度も忠告をしたのだが、この頑固者の娘は、そのたびに言葉巧みに丸め込まれてしまっていた。
『好きなものは好き、というのでいっこうに構わないんだよ。しかしね、世間様は見た目が良いものを好むものだ。気味の悪い毛虫を飼って喜んでいるなどと噂されては、大変だろう』
『あら、どうだっていいわ、ひとの言うことなんて。見た目にばかりこだわるのなんて、幼稚よ。物事の本質を見抜くことこそ大切なんだから』