「ねえねえ誰か、毛虫をとってきてちょうだい!」



ここは花の都、東の三条大路。


今を時めく大納言どのの立派なお屋敷。



その奥深くに、鈴のように軽やかで可憐な声が、明るく響きわたる。


声をかけられた男童たちは「またですか?」と呆れたように振り向いた。



まわりでお仕えしていた侍女たちが、「きゃあ」だの、「いや、こわいわ」だの、「逃げましょう」などと騒いでいる。



その中心にちょこんと座っているのは、大納言の五番目の姫君、成人の儀を終えたばかりの胡蝶姫である。



「あら、なんで嫌がるの? 毛虫ほど可愛らしい生き物はいないのに」



恐れおののいている侍女たちに向かって、胡蝶は不満げに唇を尖らせた。


それから、くるりと振り向いて、縁側に鈴なりになっている男童たちに声をかける。



「お前たち、早くとってきてちょうだい。いちばん立派な毛虫を持ってきてくれた人に、唐菓子をあげるわよ」



男童たちは目を輝かせ、いっせいに庭へと駆け出していった。


女たちの恐慌が絶頂を迎える。



「きゃああ! 早く逃げなきゃ、またこの部屋は虫だらけになるわよ!」


「いやっ、待って、置いていかないで!」



胡蝶はさらに不満そうな声を上げた。



「ねえ、だれか一緒に虫を観察しましょうよ」


「ごめんなさい姫さま、それだけは無理でございます! どうかお許しくださいませ!」