煙を吸って喉が痛い。




涙が滲んできた。





手拭いを口許に当てて、炎の中をただただ走る。





しばらく行ったところで、道端で小さな子どもがうつ向けに倒れているのが目に入った。





「大丈夫!?」





立ち止まって女の子の肩に触れた瞬間、背筋が凍った。




完全に力を失ってぐったりとした身体。




恐る恐る口許に顔を近づけてみると、息をしていなかった。





どこにも火傷はない。




煙を吸ってしまったんだろう。





女の子の顔を見ると、頬に煤がついて、目が半開きの状態だった。




うつろな瞳に、燃え盛る炎がちらちらと揺れていた。




その瞼を閉じて、頬を拭ってあげ、あたしはよろよろと立ち上がった。





その瞬間、胃のあたりがぐうっと痛んで、胃液が上がってきた。




道端に吐いて、涙を拭い、あたしはまた走り出した。




足がもつれて、上手く走れない。





途中、燃え盛る家の前で呆然と立ちすくんでいる親子を見た。




でも、あたしにはどうしてあげることもできない。





だんだんと感覚が麻痺してくるのを感じた。






………これが、戦争なんだ。




国と国の争いで、政府が始めた争いで、罪もない人たちが命を失っていく。





この目で見て初めて、その怖ろしさと愚かさを実感した。