早く帰らなきゃ………。




そう思って歩き出そうとしたけど、緊張で微かに震える足が、上手く動いてくれない。





遠くで、近くで鳴り響くサイレンの音が重なり合って、ぞっと身の毛がよだつような不協和音を奏でる。





ーーーそのとき。



空が、ふっと暗くなったような気がした。




反射的に顔を上げる。





きれいに晴れた夏の空。




その鮮やかな青の中に、小さな黒い斑点………。






「………来たぞ!! 爆弾だ!!」






誰かが叫んだ瞬間、周りで一斉に悲鳴が上がった。






「逃げろーっ!!

防空壕に入れーっ!!





「急げ!! すぐに来るぞ!!」





空から、雨のようにばらばらと降り注いでくる、無数の爆弾。




信じられない光景に、あたしは魂を抜かれたように立ち尽くすことしかできなかった。




口々に何かを叫びながら走る人々が、前から、後ろから、横から、激しくぶつかってきて、あたしはよろめいた。






「あんた、何してるの!


早く逃げなさい!」






知らないおばさんに強く背中を叩かれて、あたしはやっとのことで我に返った。




風呂敷包みをぎゅっと抱きしめ、もと来た道を走り出す。





背後でひゅるひゅるという音がして、次の瞬間。