「おととし結婚したんだ。

娘は去年の冬に生まれた。

俺はこの子が生まれる前に徴兵されたから、会ったことはないんだが………」





「え……? 自分の娘なのに?」






思わず言ってしまってから、後悔した。



穏やかな微笑みを浮かべたままの寺岡さんの目に、寂しそうな色が滲んだから。





そうだよね。



悲しくないわけがない。




きっと寺岡さんは、自分の子供をその腕に抱くこともなく、この世から消えてしまうんだ。





信じられない。



ひどいよ………。




いくら戦争だからって、そんなことが許される?





でも、寺岡さんは強い光を放つ目で、こう言った。






「俺はね、特攻隊員になったことを誇りに思っているよ。

俺はこの命をもって妻子を守ることができるんだから」






………なにそれ?



そんなの間違ってるよ。




だって、寺岡さんの奥さんは、こんなに若いのに、シングルマザーになっちゃうんだよ?




あたしは自分の母親のことを思い出して、やりきれない気持ちになった。




朝から晩まで働いて働いて、あたしを育ててくれてお母さん。




会いたいよ………。