坂が緩やかになってきた。



両側にそびえていた樹木が少なくなって、視界が開けてくる。



ふと見上げると、鮮やかな緑の梢の向こうに、真っ青な空が広がっていた。





久しぶりに空を見たような気がした。





「百合、おいで」





呼ばれて視線を戻すと、数歩先で佐久間さんが手招きをしている。



小走りに駆けていくと、





「見てごらん」





と佐久間さんが両手を広げた。





その指が指し示すほうを見て。





「―――うわぁ!!」





思わず叫んでしまった。




丘の上に、一面の百合の花。




真っ白な花弁が日光を反射して、目映いくらいに輝いていた。





「すごい……! 

百合の花がいっぱい!」





こんなの初めて見た。



百合の花なんて、花屋さんの店頭か、花束に入っているのしか見たことがなかった。




自然の中に咲いている百合を見るのなんて、初めてだった。




むせかえるほどに甘くて濃い、百合の花の香りが、あたり一面に充満している。




もっと近くで見たくて、あたしは百合の花に駆け寄った。