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ツルさんの店で働きはじめて、数日が過ぎた。
お客さんは、少し離れたところにある会社や事務所の立ち並ぶ辺りから、昼食を食べにやって来る人たちがほとんど。
近所の家の人たちが来ることは滅多になかった。
とにかく米が入手困難で、食堂なのに白ご飯は出せない。
代わりの主食は、うどんとか、サツマイモを茹でたものとか、じゃが芋に塩をかけたものとか、トウモロコシとか、大豆粉で作ったパンもどきの物とか。
おかずも貧相。
大根や人参の煮物。
青菜を茹でて、代用醤油って呼ばれる謎の調味料をかけたもの(怖いから原料は聞いていない)。
冷凍の魚を揚げたもの。
あとは漬物、それくらい。
大根の葉っぱとサツマイモの蔓でカサ増しした、お米がほんの少ーしだけ入った雑炊もある。
本当に粗食。
こんなものしか食べられないのに、力が出るわけがない。
あぁ、白くて甘いお米が食べたい。
お肉が食べたい。
卵が食べたい。
アイスクリームが食べたい。
………なんてことを思いながら、あたしは必死に動き回った。
優しくしてくれたツルさんに、迷惑をかけたり、失望させたりしたくなかったから。