「この店の近くにね、陸軍の飛行場があるんだよ。


それで、訓練が休みの日になると、軍人さんたちがみんなして食べに来てくれるんだけど、どうも忙しくって手が回らないことが多いんだ。

だから、百合ちゃんが手伝ってくれると嬉しいんだけど。


あ、もちろん住み込みでね」






いくらあたしでも、ツルさんの気づかいに気が付いた。




あたしが帰る家を失くしてしまったと思って、ここに住ませてあげるって言いたいんだ。




でも、そういう言い方だとあたしが遠慮すると思って、わざと「手伝って」と言ってくれだのだ。





あたしは、じんわりと心が温まってくるのを感じた。




色褪せて擦り切れたモンペの膝をぎゅっと握りしめて、ツルさんに頭を下げる。






「………よろしくお願いします」





「そうかい、よかった。助かるよ」






なんて優しい人だろう。




どこの誰かも分からない、役に立つかも分からないあたしを、自分の家に引き取ってくれるなんて。




この人がいなければ、あたしはこの世界にも来たその日に、あっけなく死んでいたかもしれないのだ。




そこまで考えて、急に、いちばん初めにあたしを助けてくれた男の人ーーー佐久間さんのことを思い出した。





また会えるかな。



そしたら、ちゃんとお礼を言おう。