「あらあら、どうしたの。

もしかして……おうち、なくなっちゃったのかい?」





ツルさんがゆっくりと背中を撫でてくれる。




その優しさに、とうとう涙がぽろりと溢れた。





「そうかい………こないだの空襲かねぇ。

そりゃ、お気の毒にね………私もね、あの時、家が駄目になっちまったよ。

家族もね、家と一緒に………。


まぁ、店だけでも助かったからね、不幸中の幸いってもんだよ」





ーーー空襲?



そんなの、本当にあるんだ……。




そして、ツルさんは、家と家族を失ったんだ。






………なんて世界に、あたしは来ちゃったんだろう。




いやだ、こんなの。





帰りたい。




帰りたい。





お母さんのところに帰りたい………。






「………すみません、ご迷惑おかけしました。

ありがとうございました」





あたしはツルさんに頭を下げて、鶴屋食堂を飛び出した。





来た道の記憶を辿って、なんとか防空壕に着いた。




勢いよく板戸を開けて、中に飛び込む。




でも、何も起こらない。