「あぁ、目が覚めたかい?」





ひやりと冷たいものを額に感じて瞼を上げると、ツルさんの微笑みがあたしを包んだ。




倒れてしまったのだと気づいて、あたしはがばっと身を起こす。






「あっ、これ、あんた、そんなに急に動いたら………」






ツルさんはあたしを再び寝かせて、冷たい水に浸した布で顔を拭いてくれた。






「井戸で汲んできたばかりの水だから、冷たくて気持ちいいだろ」





「あ、すみません、わざわざ………」






…………井戸って。




やっぱりここは、昭和の日本なんだ。





再び愕然として、あたしは目を瞑った。






「ねぇ、あんた、百合ちゃんだっけ?」





「はい………」





「百合ちゃん、家はどこだい?

この辺じゃ見ない顔だけど」






当然だ。



あたしの家が、こんなところにあるわけない。





あたしには、帰るところがない。





それに気がついて、勝手に涙が滲んできた。