「俺が扇いでやろう」





佐久間さんがツルさんからうちわを受け取り、ぱたぱたとあおいでくれる。





「あ……ありがとうございます……」





ふんわりと柔らかい風が、火照った頬や首を冷ましてくれた。





「まったくねぇ、家庭用の扇風機が作られなくなって、もう何年だっけねぇ」





ツルさんが何気なくそう言った。




あたしはツルさんからもらったおしぼりで顔を拭きながら、ふと変に思う。




家庭用の扇風機って無くなったの?



いつの間に?




そういえば、うちにも10年以上前の扇風機があるけど、最近はエアコンばっかりで、全然使ってないな。


つまり、エアコンが普及して、扇風機が売れないから、製造中止になったとか?





怪訝に思っていると、佐久間さんがツルさんの言葉に頷いている。






「たしか、もう三、四年になるでしょう」





「そんなになるかねぇ。うちの扇風機、おととし壊れたもんだから、新しいのはもう手に入らなかったんだよ。

お客さんに暑い思いさせるのは忍びないんだけどねぇ」





「今は何事も軍需生産優先ですからね、仕方ありません」






………グンジュ、セイサン?




耳慣れない言葉を吐いた佐久間さんに、ちらりと視線を送る。




佐久間さんはにっこりと笑い、あたしとツルさんを交互に見た。