「………いや、言いたくないならいいんだが。


えーと、そうだ、まだ名乗っていなかったな。


俺は、佐久間彰という者だ」






あたしはぼんやりと、「さくま、あきら」と繰り返す。





その人---佐久間さんは、こくりと頷いて小さく笑った。






「よかったら、君の名も教えてもらえないか?」





「あ………加納百合、です」





「ゆり、か。きれいな名前だな」






佐久間さんは、にっこりと笑った。





あんまり屈託がないので、笑顔が得意ではないあたしも、つられたように笑ってしまった。






「だいぶ良くなったか?」





「はい、楽になりました」





「そうか。じゃあ、少し移動しようか」






佐久間さんはそう言って、地面に座り込んでいるあたしにすっと手を差し伸べる。




すごく自然な仕草だったので、あたしも自然と佐久間さんの手をとることができた。





「ゆっくり歩くから、のんびりついておいで」





あたしはセーラー服のスカートを風になびかせながら、明るい陽射しのもとで、命の恩人の大きな背中を追いかけた。