『哲へ


この度 兄は

特別攻撃隊員として召された


身に余る光栄に身震いしそうな思いだ


お国の為に散ることを許された喜び

それを胸に体当りする


必ず敵を轟沈してみせよう



この手紙が届く頃には

兄は既に敵艦もろとも

海の藻屑となっているだろう


大和男子として

これ以上の栄誉があろうか



短い一生ではあったが

兄は悠久の大義に生きる



お前が 兄ちゃん兄ちゃんと言って

いつも後をついてまわっていたのが

なんだかとても懐かしい



哲よ

兄に倣って 立派な日本男児となれ


母上様を頼む』







『恵子へ

兄らしいことは何もしてやれなかったが

いつもお前のことを心配していた



学校へ行って勉強がしたいと

いつも言っていたね


じきに戦争は終わるだろう


昔のように学校へ通える日が戻ってくる


その日が来たら 存分に学びなさい

学ぶべきことは

数え切れなほどに たくさんある


兄が学べなかった分まで

どうか勉学に励んでくれ



そして

兄は神国の御楯として

大空に華と散ったと

兄は立派な帝国軍人だと

その胸に誇ってくれ



立派な日本女性の模範となることを願う


この兄の分までも

父上様母上様に 孝行してくれ』






一文字一文字、思いを込めて書いたのが伝わってくるような手紙だった。





彰は本当に弟さんと妹さんのことを大事にしていたんだな、と伝わってきた。