………でも、違う。



あれは、まぎれもなく現実だった。





だって、あたしが戻ってきた日、お母さんが言ったのだ。




あたしの胸もとに顔を近づけて、「百合の花のにおいがする」と、不思議そうに。




よく見ると、あたしの掌には、百合の花粉がついていた。




夕日のような濃いオレンジ色が、たしかにこびりついて離れなかった。





………彰がくれた百合の花。



別れの瞬間に、あたしが握りしめていた百合の花粉。




だから、あれは夢なんかじゃなかったって、あたしは確信している。




彰はたしかに、存在したのだ。





………もう、会えないけど。





そう思って、また涙腺が緩む。




庭先で揺れる百合の花を見つめながら、あたしはひっそりと涙を流した。






『泣き虫だなぁ、百合は………』





また、あの声が聞こえた気がした。