彰は操縦桿を握っていた右手を外し、何かを掴んで、あたしの方に投げた。





訳も分からず、あたしは必死に手を伸ばして、それを受け取る。






ーーー満開の百合の花だった。





甘い香りがふわりと鼻腔をつく。





涙が溢れた。





あたしは顔を上げて、彰、と唇を動かす。




でも、もう声は出なかった。






彰はあたしに手を振り、穏やかで晴れやかな笑顔のまま、通り過ぎていく。






「彰………」






呆然と見送るあたしの前を、最後の一機が過ぎ去っていった。





前方で、先頭機がふわりと飛び立つ。




次の機も、その次の機も、それに続いていく。





とうとう、彰の機も、空に飛び立ってしまった。






「あきら………彰………っ!」






特攻機たちは空に吸い込まれるように飛び上がっていき、上空で編隊を組む。





そして、見送る人々の上を大きく旋回して、そのまま南の方へと向かっていった。





ーーーとうとう、行ってしまった。




きっと、もう二度と、彼らは帰って来ない。






遥か遠い青空に、


二度と帰らない空に、


黒い点のようになった特攻機たちがすうっと溶け込んでいくまで、



あたしは瞬きもせず、百合の花を握りしめながら、小さくなっていく機影を見つめていた。






ーーーその後、あたしの身体はぐらりと傾いで、地面に倒れ伏した。





そのまま、意識が消えた。