あ、と思ってあたしは腰を上げる。




近づいて床に落ちた紙を拾い、何気なく見てみた。





そこには、『どうか投函してください』というツルさん宛てのきれいな筆文字が書かれていた。




食卓の上に置かれている紙の束に目を向ける。




それは、特攻隊のみんなが家族に宛てて書いた、最後の手紙だった。




どれもきれいな白い封筒に入れられ、しっかりと封をしてあって、真っ黒な墨で宛名が書いてある。




昨日の晩、ツルさんが預かったものなんだろう。




ツルさんは今までも、特攻隊員たちの手紙を預かって、家族に送ってあげていたと聞いたことがあった。




軍の中から送ると、中身を検閲されてしまうから。





思わず、一つ一つ手にとってみる。






几帳面に整った寺岡さんの字。


きっと、奥さんと娘に向けた手紙だ。





濃くて豪快な加藤さんの字。


お父さん宛てらしい手紙と、そして小学校宛ての手紙。


やっぱり熱血教師だ。





石丸さんの字は、意外と達筆。


家族全員の名前が書いてある。


送り主のところに『あの世より 智志』と書いてあるのが、冗談好きの石丸さんらしくて、切なかった。