少し離れたところで、隊員たちの最後尾にいた石丸さんが、こちらの様子を窺うようにちらりと振り返った。




これ以上引き止めたら、他の人にまで迷惑がかかる。





あたしは彰の手をぎゅっと握って、その目を見つめながら言った。






「………二度も、あたしを助けてくれて、ありがとう。


彰がいなかったら、あたしはもう、ここにいなかったかもしれないんだね。


ほんとに、ありがとう」






彰が目を細めた。



なぜか、苦しげにも見えた。




だから、あたしは笑った。



たぶんすごく下手な笑顔だけど、いま出来る精一杯の笑顔で。






「行って、彰。


みんなが待ってるよ」





「………ゆ、り」





「今までありがとう。行って」






彰があたしの手首をつかんで、ぐいっと引き寄せ、あたしの身体を抱きしめた。





今までとは比べ物にならないくらい、強い力で。




息が止まりそうだった。





彰の唇が耳許に寄せられる。






「………百合、百合。


ごめんな、ありがとう………」






さらに力強く、ぎゅっと抱きしめてから、彰はゆっくりと離れた。




そして、………あたしに背を向けた。





それからは一度も振り返らず、彰は去って行った。





その背中が闇に紛れて見えなくなるまで、あたしはその場に立ち尽くしていた。