「行かないで、行かないで、行かないで。


お願いだから、行かないで………。

死なないでよ、死んじゃだめだよ………。


死んだら、会えないんだから………もう、本当に、会えないんだから………」






彰の背中に手を回し、必死ですがりつく。






「だめだよ、行かないで、行かないで。


あたしを置いて行かないで………」






彰の腕がふわりと両側から回ってきた。




懐かしい体温があたしを包む。





彰の大きな手が、あたしの背中をさすった。





でも、彰は、何も言わない。






「ねぇ、彰、行かないで………」





「……………」






あたしの言葉は虚しく宙をさまよって、夏の夜風に吹き消された。





泣きながら顔を上げると、彰の顔が月明かりに照らされて白く光っている。





その顔は微笑んでいたけど、困ったように眉が少し下がっていた。






…………こんな顔を、させたかったわけじゃない。




彰を困らせたいんじゃない。





あたしはもう、何も言えなかった。





ゆっくりと身体を離す。






「………ごめん、彰。


わがまま言って、ごめん………」





「百合………」






両手で涙を拭って、あたしは彰を見上げた。