石丸さんと彰は、みんなの気持ちを上向かせるために冗談を言ったんだ。





なんて優しい人たちなんだろう、


……と思うと同時に、



そんな人たちがどうして、


……という、どうしようもない思いが湧き上がってきた。






「………そろそろ、行こうか」





最年長の寺岡さんが言うと、みんなが一斉に動き出した。





「ツルさん、ご馳走様でした」




「最後にツルさんの料理が食べられて、本当に良かった」




「これで、何の未練もなくあの世に行けるなぁ」




「吉野は食いしん坊だからな」




「あの世でもたらふく食うんだろう」





そんな軽口を叩き合いながら、店を出て行く隊員たち。




冗談のように「あの世」という言葉がでたことに、あたしの胸は言いようもないほど苦しくなった。





この人たちはもう、完全に覚悟している。




自分が死ぬことを。





出撃命令が出るずっと前から………きっと、特攻隊に入った時からずっと、覚悟を固めてきたんだろう。





なんて悲しいことだろうか。




死を覚悟しながら、何ヶ月も生きてきたこの人たちは、なんて………。




特攻を容認することは到底できなかったけど、この人たちの強さに、あたしは心を打たれずにはいられなかった。