………悔しい?



死ねなかったことが、悔しい?





なんだそれ、と叫びたくなった。



なんだそれ、なんだそれ、なんだそれ。





なんで、死なずにすんだことが悔しいの?





この時代の戦闘機は、もちろん現代みたいな安定性はなくて、エンジンの故障などはかなり多いという。




出撃の命令を受けた特攻機が直前に故障して飛べなくなったり、飛び立ってすぐに不調になってとんぼ返りしたり、ってことも珍しくないらしい。




積んでいた特攻用の爆弾が途中で落ちてしまって、戻らざるを得ないこともあるとか。






「これ以上飛べないと分かったとき、俺は無線で仲間たちに報告した。

隊長は明るい声で、



『俺たちは先にあの世へ行って待っている

お前も後から追いついて来い』



とだけ言って、そのまま南の空へと消えていった。



その機影をただ見送るしかなかった無念は………今思い返しても、悔しくて悔しくてたまらなかった。

一人だけ生き帰って来たことが、恥ずかしくてたまらなかった。


その後、俺は何度も『出撃させてくれ』と上官に訴えつづけて、血書によって軍の上層部に何度も嘆願して、今回やっと、待ちわびていた命令が下った。


俺は嬉しい………」






野田さんはそう言って、にぎりしめた拳で涙を拭った。