そんなことを思いながら、あたしは「なんでもない」と答えて歩き出した。





丘の頂上に近づくにつれ、百合の花の甘い香りが漂ってくる。





丘の上に立って町を見下ろして、あたしは





「わ………真っ暗」





と独りごちた。




町は闇に沈んで、どこに人家があるのかも分からないくらいだった。






「灯火管制があるからな。

どこの家も明かりをつけていない」






彰はあたしの隣に立って、町を見下ろしながら答えた。




空襲で焼かれたばかりの、明かりもない町は、しんと静まり返って、まるで廃墟のようだった。





それを悲しく思いながら、あたしはしばらく町を眺めていた。





そのとき、急に視界がなくなった。





「え……っ、ちょっと」





彰が後ろから手を伸ばしてあたしの目を塞いだのだと気づいて、あたしは戸惑いながら身をよじる。




すると彰は、両手であたしの目を塞いだまま、ゆっくりとあたしの顔を仰向かせた。