板倉さんの姿が見えなくなると、寺岡さんたちは基地に戻って行った。




彰だけは残って、あたしを鶴屋食堂に送ると言ってくれた。




いつの間にか、町はすっかり暗くなっている。





彰と並んで歩きながら、あたしは口を開いた。





「………あのさ、彰」




「うん?」





立ち止まり、彰を見上げる。





「………あの丘、行きたい」




「あの丘って、百合の花の?」




「うん………ちょっと話したい」





彰は頷いて、「暗くて足もとが危ないから」とあたしの手をとって歩き出した。




温かい手。




心臓が勝手に跳ねるのを感じた。





「百合? どうした?」





彰が振り向く。




薄闇の中に浮かび上がる、彰の顔。



優しい目があたしを見ている。





どきりとする。




さっき彰に抱きしめられた温もりを思い出した。




空襲のとき、恐ろしさのあまり眠れなかったあたしを抱きしめ、寝つくまで背中を撫でてくれていたこと。