彰はあたしの頭を何度も撫でて、あたしを抱きしめたまま、「板倉」と呟いた。






「早く、行け。


お前を待つ者がいるところに、お前を必要としている者がいるところに、帰れ。


俺は止めないよ」






今度は加藤さんも何も言わなかった。




寺岡さんと石丸さんは、板倉さんを見て小さく頷く。





板倉さんは目に涙を浮かべ、くしゃりと顔を歪めた。





「すみません………すみません」





項垂れて何度も謝る板倉さんの肩を、寺岡さんがぽんぽん、と叩いた。




彰が微笑みを浮かべて、柔らかい声で囁く。





「行け、板倉。


行って………俺たちの分まで生きてくれ」





板倉さんは走り出した。




堪えきれない嗚咽を洩らし、抑えきれない涙を流しながら。





彰たちは夕陽を背に受け、ただ黙ってその後ろ姿を見送っていた。





地面に長く影が伸びていた。