本当は、他のみんなにも、そう言いたかった。





寺岡さん。


きれいな奥さんとかわいい赤ちゃんがいるんでしょ?


帰ってあげてよ。


自分の娘を抱きしめてあげてよ。





加藤さん。


教え子たちはきっと、熱血で暑苦しいけど、生徒思いで優しい先生の帰りを待ってるよ。


命を賭けて子供たちを守るより、命の大切さを教えてあげてよ。





石丸さん。


あなたの家族は、明るくて楽しいあなたの笑顔を、また見たいって、いつまでも見ていたいって、思ってるに決まってる。





そして、彰………。


大事な妹に、顔を見せてあげてよ。

優しいお兄さんの帰りを、本当は待ってるはずだよ。


ここにいる『もう一人の妹』だって、あなたのことが………。





あたしの心は、言えない言葉でいっぱいだった。




溢れた思いが涙になって頬に伝う。





そのとき急に、あたしの身体はあたたかいものに包まれた。






「………百合、もう泣くな」






彰の声が、すぐ耳許で聞こえる。




心地よい彰の温もりに包まれると、あたしの喉から嗚咽が洩れた。