とめどなく涙が溢れてきた。



視界がくしゃくしゃに歪んで、もう誰の顔も見えない。





「百合ちゃん………」





板倉さんの声が聞こえた。



その声のほうに向かって、あたしは必死に言う。






「板倉さん、早く帰ってあげてよ。

婚約者さん、きっとずっと心細い思いしてるよ。


だって、家族もいないんでしょ?

たった一人で、空襲に怯えながら暮らしてるんでしょ?


そんなの悲しいよ……寂しいよ。

板倉さん、一緒にいてあげなきゃ」






板倉さんの恋人の気持ちを考えたら、あたしは居ても立ってもいられなかった。



こんなに恐ろしい世の中で、たった一人で暮らすなんて、あたしだったら絶対に耐えられない。