加藤さんが目を怒らせて板倉さんを睨む。






「………愛する者、だと? 女か?」






板倉さんは黙って見つめ返した。



それを肯定ととったのか、加藤さんの怒りが爆発する。






「お前、女にうつつを抜かして、敵前逃亡するのか!

何という情けない……生き恥だぞ!


それでも日本男児か!?

大和魂をどこに忘れて来た!?」






加藤さんが感情に任せて怒鳴り、板倉さんの胸ぐらを掴んで激しく詰め寄った。



その身体を、寺岡さんが即座に抑える。





「………もうやめろ、加藤」





低く小さいのに、驚くほどよく通る声。



加藤さんははっとしたように振り返った。




寺岡さんは、それ以上なにも言わずに、静かに首を左右に振る。



加藤さんはゆっくりと板倉さんを掴んでいた手を離した。





気まずい沈黙が流れる。