加藤さんの鋭い視線を受け止めていた板倉さんは、しばらくしてから、ふ、と苦い笑みを浮かべた。






「………なにが天皇だ。

なにが国だ。

なにが帝国軍人だ」






低く押し殺したような呟きは、でも、あたしの耳にはしっかりと届いた。



板倉さんはどこか自嘲的な調子で続ける。






「誰がこんな戦争を始めたんだ?

なぜ、こんな戦争を始めたんだ?


俺は、故郷に帰りたい………。

そして、愛する者と共に、生きられるかぎり、生きていきたい。


俺は口惜しいんだーーー

なぜ俺たちが死ななければならない?」






板倉さんの声には、やり場のない怒りが滲んでいた。






「故郷から遠く離れたこんな地で、犬死にするなんて………。


俺たちがいったい何をした!

なぜ生きてはいけないんだ!」






悲痛な叫びが、夕暮れの薄闇の中に響き渡った。



寺岡さんと石丸さんは、眉根を寄せて俯く。



彰は表情の読めない顔つきで板倉さんを見つめていた。