加藤さんの低い声に、板倉さんは一瞬目を伏せたけど、すぐに顔を上げ、まっすぐに見つめ返した。





「………俺は、逃げます」





きっぱりとした答え。



加藤さんがかっとしたように「お前!」と叫び、板倉さんの肩を掴んだ。





「恥ずかしいと思わないのか!」





板倉さんは痛そうに顔をしかめた。



加藤さんがさらに詰め寄る。





「お国のために、天皇陛下のために、俺たちは崇高な役目を任されたんだぞ!

こんなにも誇らしいことがあるか!?


敵前逃亡など、帝国軍人の風上にも置けん!」





その言葉は、あまりにも真っ直ぐだった。



加藤さんは本気でそう思ってるんだろうか?




板倉さんの「生きたい」という秘めた思いを聞いた今となっては、


お国のために死ぬことを、『崇高』だとか『誇り』だとか言う加藤さんの言葉は、本当に本心からのものなのか、疑いたくなってしまう。