*
「さーて、どこで寝ようかねぇ」
あたしの独り言は、変に赤い夜空に吸い込まれていった。
アパートの前の道をぶらぶらと歩き、角を曲がって住宅街の外れに向かう。
うちのボロアパートの近くには小さな裏山があった。
山って呼ばれてはいるけど、どっちかというと丘って感じの低さ。
なんとなくひと気のないところがいいなと思って、あたしは裏山のほうに足を向けた。
裏山のふもとは崖のようになっていて、岩肌が剥き出しになっている。
その崖に、一箇所、ぽっかりと穴が空いているところがあった。
「………ボークーゴー」
子どもの頃、母親から聞いた。
『あれは防空壕っていって、戦争のときに爆弾から逃げるために掘られたんだよ。
幽霊が出るから絶対入っちゃ駄目だぞ〜』
幼かったから、幽霊と聞いて縮み上がってしまって、ここには近づかないようにしてたっけ。
今思えば、この中で子どもが遊んだりしないように、この辺の大人たちは皆そう言うんだろう。