震えていた板倉さんの声は、いつの間にか、しっかりとした声音に変わっていた。





「彼女には、俺しかいないんです。


俺が生きて帰らなければ、彼女は……戦争のせいで不自由になった身体を抱えて、たった一人で生きていかなければならなくなってしまう。


だから俺は、帰らなければ………帰らなければならないんです」






板倉さんの決然とした表情に、あたしは胸を打たれた。




誰かのために生きる、という強い覚悟。





板倉さんは、決して『死にたくない』んじゃない。



『生きたい』んだ。




生きなきゃいけないんだ。




愛する人のために。




たとえ自分がどんなに罵倒されても、軽蔑されることになっても、愛する人のために生き抜くと、板倉さんは決めたんだ。




それはすごく尊いことだ、と思った。





あたしは彰の顔を見上げる。




無表情だった彰の顔が、ふわりと緩んだ。




そして、静かに呟く。





「………行け、板倉」