うつろだった瞳が、少しずつ焦点を結び始める。



板倉さんのこめかみから流れた汗が、ぽた、と地面に落ちた。





「………み、見逃してくれるのか」





まるで幽霊にでも会ったかのように、信じられないという声音で板倉さんが言う。



べつにあたしが言ったことは、そんなに驚かれるようなことじゃない。



『三日後に死にに行け』という理不尽な命令を受けた人が、『死にたくない』と願ったことを、当然のように認めただけ。




それなのに板倉さんは、あたしの言葉に耳を疑っている。




そんなの………悲しすぎる。




誰にだって、自分の意志で生きる権利があるのに。



誰にだって、生きたいと願う権利があるのに。




この時代では、そんな当然の権利も認められていないんだ。




あたしは立ち上がり、板倉さんの手を引っ張った。



板倉さんがよろりと腰を上げたとき。





「―――板倉!」





向こうから彰が走ってきた。