死にたくない。




その言葉を聞いた瞬間、今まで心にかかっていた靄が、一気に晴れたような気がした。





………そうだ。



そうだよね。



やっぱり、そうなんだ。




死にたくないんだ。




当たり前だよ。



誰だって、死にたくなんかない。




空襲から必死で逃れようとした町の人たちも、特攻隊の人たちも、おんなじだ。




だって、人間だもん。



死にたい人なんて、いるわけない。





あたしは地面に膝をついている板倉さんの前にしゃがみ込んだ。




地をつかむ板倉さんの拳が、かたかたと小刻みに震えていた。






「………べつに、あたしは捕まえに来たりしたわけじゃないよ。


見逃すとか見逃さないとか、そんなことを言える立場じゃないし。


ただ、板倉さんが急にいなくなったっていうから、心配になって探してただけ」






あたしがそう囁くと、板倉さんがぼんやりと顔を上げた。