「百合!」





彰の声を背中で聞く。




あたしは無視して速度を早めた。





でも、すぐに追いつかれる。





「百合、百合………」





彰があたしの手首を掴んで、ぐいっと引き戻す。




あたしはその手を振り払い、俯いて両手で顔を隠した。






「………っ、見ないで」






ひどい顔をしているのは分かっていた。






「ごめん、ちょっと、一人にして。

あたま、整理したい………」






彰と一緒にいたら、言ってはいけないことを、言ってもしようがないことを、ぶつけてしまいそうだった。




あたしは彰の顔を見ずに「一人にして」と繰り返す。





彰は何も言わず、小さく息を吐いた。






「………分かった。

遠くには行くなよ?」






彰の手があたしの頭をぽんと撫でた。




あたしはこくりと頷き、彰の顔を見れないまま、ゆっくりと歩き出した。