はっと視線を向けると、彰が切羽詰まった表情であたしを見ていた。





「しっかりしろ、百合」




「………あき、ら」





彰があたしの両手をつかんだ。




そのとき初めてあたしは、自分の手が信じられないくらい大きく震えているのに気がついた。




肩も足も、がたがたと音を立てるくらいに震えていた。





「寒いのか、百合」





彰はそう言って上着を脱ぎ、あたしの身体にかけてくれた。




彰の温もりとにおいにふわりと包まれると、不思議に震えがおさまってくる。





「………違う。寒いんじゃない………」





あたしは小さく答える。





「………いやなの。

こんなのもう、いやなの。


どうして、こんな目に遭わなきゃいけないの?

誰も、何もしてないのに………。


いやだよ、いやだよ………。

もう、こんな世界、いやだ。


帰りたい………」






震える声で言うと、彰があたしをぎゅっと抱きしめた。






「もう少しの辛抱だよ、百合」






低く優しい声が耳許をかする。