………この人は、なんて優しい人なんだろう。




優しいから、優しすぎるから、見ず知らずの他人の苦しみを、自分のもののように感じてしまうんだ。



そして、それを救えない自分を、責めてしまうんだ。





だから………自分の命を犠牲にしてまで、国を、国民を救おうだなんて、思ってしまうんだ。






「…………彰」






あたしは掠れた声で囁き、目の前に佇む彰の手をとった。




煤で真っ黒になり、火に焼かれて軽い火傷を負った手を。




大きくてごつごつした掌。




ついさっき、消えゆく命を救おうと必死に足掻いていたこの手で彰は、



自分の命を消すために特攻機を操縦する訓練をしているんだ。





それが、無性に悲しかった。




勝手に涙が溢れてきた。






「………百合?」






苦しげな声を聞きながら、彰の手に頬を押し当てる。




あたしの目から溢れた涙が彰の手に伝って、彰を汚していた煤が黒い川になって流れていった。






「………百合は優しい子だな」






彰はそう言って、煤にまみれたあたしの髪をくしゃりと撫でた。