あたしはぎゅっと目を瞑り、何も見ず、何も考えないようにした。




でも、いくら視覚を閉ざしても、


聴覚と嗅覚は閉ざせない。




何かが燃える、ぶすぶすという音が耳に忍び込んできて、鼓膜に貼りつく。



肉と脂の焼ける匂いが、鋭く鼻を突く。





あたしはとうとう彰の背中で、地面のほうに顔を背けて嘔吐した。



もちろん気づいただろうけど、彰は何も言わなかった。





今朝は青菜の切れ端が浮かんだ薄いお粥を食べただけで、胃の中はもう空っぽ。



苦くて酸っぱい胃液しか出て来なかった。





彰は無言のまま川へ向かって走り続ける。





―――その途中で、また、信じられない光景を見た。



炎に巻かれて苦しみながら転げ回っている男の人だった。





彰はその人を見た瞬間、





「百合、ちょっと待ってろ」





と言って、あたしを背中から下ろした。