夢雨さんのレビュー一覧

きみと、きみのいる明日
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唐沢隼人が消えた。そして、3人の物語がまわり始めた。 冴えない“僕”と、いつだってクラスの中心にいる橘。ちぐはぐに見えるふたりが夏のなかへ飛び出した瞬間、その長い一日は幕を開ける。 肌に真夏の温度を感じ、目には田舎の景色が浮かぶ。自転車のホイールがまわる音が聴こえる。ふたりの共有した時間が、ページを進むごとにたしかな熱を持っていく。 消えてしまった彼と、残されたふたり。 ハヤトは誰なのか?ヒカルは誰なのか?そして橘はなにを知っているのか。 彼の消えた意味が明らかになったとき、運命の残酷さと、世界の優しさを思い知る。 「いらない明日を捨てに行く」 それは、絶望ではなく、たしかに希望の言葉だった。 絶望を捨て、希望をつかまえたふたりとひとりの生きていく明日は、違っているようできっと似ている。見たこともないような新しい色をしている。 圧巻の物語です。ぜひ、夏のあいだに読んでほしい。

2017/08/07 11:26
青春・恋愛 71ページ ・総文字数53,602
それは、どこまでも純粋な
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レイラは自分のことを『最低だ』と言うけれど、それは誰よりも純粋な証なんだと思う。 19歳のときに出会って、すべてを捧げてきた。自分の人生が犠牲になってもかまわなかった。それほどまでに愛せる誰かに、人はなかなか出会えないものだと思う。 レイラ、ルイ、そしてリヒト。それぞれがそれぞれの純粋を抱えていて、ただ求めて、でも、手に入らなくて。そうか、純粋って痛いんだって、思い知らされました。 ルイのあたたかな優しさも、リヒトの見えづらい優しさも、わたしは愛しい。そんなふたりのあいだで揺れるレイラの愚かささえ、愛しい。 ずるい大人をこんなにも透明に描いた作品を、わたしはほかに知りません。誰かを強烈に愛してみたくなる、そんな作品です。

2017/06/01 13:20
青春・恋愛 250ページ ・総文字数131,266
教科書には載らない
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つらくて、何度ページをめくるのをやめようかと思っただろう。それでも止まらず、何度も涙で文字が滲み、画面にしずくが落ちました。 百合と同じように、私も戦争のことは社会科や歴史の授業で学びました。でも、それがいかに機械的で表面的なことであったかを、痛烈に思い知りました。 人間が、生きていた。想いをもって、生きていた。彰という名前があった。泣いたり笑ったりしていた。そこにはたしかに、教科書には決して載らない温度があったんです。 70年前。そう遠くもないなあと思います。私と同い年、あるいはそれよりうんと若い命が、誇りを胸に散っていく。なんて愚かな、悲しいことなんだろう。 できればこの国に生まれた人全員に読んでほしい。そして彼らの温度を感じてほしい。きっと読後は、新しい世界が広がっています。

2016/06/19 21:50
青春・恋愛 220ページ ・総文字数107,803
ただひとつの輝き
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絶対的な自信があるものを失くしたとき、どれほどの絶望を味わうのだろうかと考えても、それってきっと想像すらできない痛みで。 そんな闇のなかを歩いてきた昴の前に、突然舞い降りた真夏という星。 誰かの光になる。それってとっても難しいことだけれど、最高の口説き文句だなって思いました。 真夏の光だった昴。そして今度は、真夏のほうが、昴の星。 繊細で、流れるような文章のなかで、まるでふたりは流れ星のようで。 すれ違って、遠慮して、そうやって少しずつ近づいていく昴と真夏が、切なくも微笑ましかった。 これからふたりは、同じ銀河を歩いていくんだなあ。お互いがお互いの光を頼りにしながら。そしてきっと、お互いを照らしあいながら。 きっと誰もが、誰かの輝きでいられる。 ぜひ夜空を眺めながら読んでいただきたい、素敵な作品です。

2014/10/12 14:31
青春・恋愛 175ページ ・総文字数101,600
100年と、それから1日
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笑うことができる居場所と、泣くことができる居場所。それが同じだという人間もいるかもしれない。だけどなかには、違う人間もいるかもしれない。 雅人くんの前で無理して笑う美輝ちゃんは、とても滑稽で、だからこそとても愛しかったです。 そしてそれは、町田さんも同じ。 いがみあって、嫌いあって、ひとりの男を取りあって。よくある話かもしれないけど、そうじゃないなあって。 彼に、笑ってほしい。だけど自分の前で泣いてほしい。ふたりは違うようでとても似ていて、ふたりともが愛しくてたまらなかった。 美輝と目を覚ました町田さんの100年。雅人と美輝の100年。雅人と町田さんの100年。 そして、やっと泣ける場所を見つけられた美輝と、それを不器用に、けれど優しく見守っていくであろう賢、ふたりの100年。 読み終えたあと、彼らの100年が、とても楽しみになりました。

2014/09/25 21:13
青春・恋愛 115ページ ・総文字数103,787
夢をみた、その先で
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私事ではありますが、わたしにも夢があります。もうずっと変わらない、大切な夢。ぼんやりとしていたそれは、年を重ねるごとにはっきりと見えてきて、明確な道を作ってくれる。 常葉さんが言っていたことって、そういうことじゃないかなあと思いました。 彼は神様で、誰もが願いごとを叶えてもらいに来るけれど。でも、違う。神様はただ、そっと、やさしく見守ってくれている。叶えるのはわたし。そういうことじゃないかなあ。 夢がある人、ない人、叶えた人、諦めた人。この物語で生きている人たちはみんな、色んな気持ちを抱えています。きっと誰かに共感する。きっと、誰もに共感できる。 まだ夢を見つけられていない人も、夢の途中だという人も。 人が、人の笑顔が好きな神様の願いごとを、どうか見届けて欲しい。 円さんのあたたかい世界。そのなかできっと、神様はやさしく微笑んでくれることでしょう。

2014/07/29 14:40
あやかし・和風ファンタジー 207ページ ・総文字数134,920
何度でも、きみと。
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「だからきみが、憶えておいて」 誰よりも綺麗な二人の世界。 毎日新しくなる二人の世界。 まるで磁石のように引かれ合い、いつだって自然と隣に居たセイとハナ。 それぞれが抱える痛みや苦しみを、二人は出逢えたことで分かち合うことが出来た。 忘れてもいい、だって、その日々は失くなったりしない。 何度でも出逢い、何度でも恋をする二人がとても愛しかったです。 悲しいけれど、悲しいだけじゃない。幸せで、温かい。それはきっと、セイとハナだから。他の誰でもない、きみだから。 満点の星空の下、二人が幸せでありますように。沢山の花に囲まれて笑い合っていますように。 今という瞬間を大切にしようと思える、素敵な素敵なお話でした。ぜひ、ご一読を。

2013/06/22 00:11
青春・恋愛 222ページ ・総文字数140,650
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