最優秀賞

博士とロザリー

紀本明 / 著

【講評】

とある国の天才博士。博士は、死んだ最愛の恋人の記憶を組み込んだヒューマノイドと二人、静かに暮らしていた。しかし、博士からの愛を受けるうちにヒューマノイドに自我が芽生え始め…。感情を持つ生物ならざるものという部分は定番の王道ですが、わかっていても泣かされてしまうのは、その王道を作り上げる細部に力があったからだと感じています。舞台装置に頼らず、読者を泣かせるという意味で博士とヒューマノイドの気持ちの変化まで描き切っていた部分が素敵で、感情移入して読んでしまいました。面白かったです。予想外の結末に驚き、そして号泣しました。

優秀賞

宇宙に続くバージンロード

香秋ちひろ / 著

【講評】

婚約者から渡されたDVDには友達からの結婚の祝福の言葉と、お気に入りのクマのぬいぐるみ“どんさん”が写っていた。全国の友人たちにリレーのバトンのように繋がれたどんさんが最後行きついたのは――。思わず「えっ！」と声を出してしまったほど驚きました。物語の冒頭にさりげなく、それでいて印象に残るような伏線が張られていて痛快！まさに予想外のラストでした。心が温まり、優しい涙が零れ落ちるような作品で、とても素敵でした。

優秀賞

もう一度、キミと初めての恋をしよう

中小路かほ / 著

【講評】

余命半年と告げられた主人公の前に、死神が現れる。「命を延ばすかわりに”大切な記憶”をもらう」と契約を持ちかけられるが、主人公は大切な彼との記憶を手放せずーー。余命わずかな主人公の前に死神が現れるキャッチーな設定から物語は始まります。この契約こそが、予想外の展開に繋がり、テーマに合致した泣ける物語になっていました。短編の中に、泣けるエンタメ要素がうまく盛り込まれ、ラストはタイトルの意味が回収される感動作です！

優秀賞

卒業を破り捨てた

柚月しずく / 著

【講評】

卒業式の間近。退職を考えていた若手教師・夏目は、担任クラスの生徒・灰原と卒業前の心残りを一緒に解消することに。しかし、灰原にはある秘密があり…。限られた文字数の中でしたが、主人公である夏目の抱えている葛藤が深く感じられました。そしてだからこそ、灰原と関わることで、夏目がその葛藤を乗り越え、新たな一歩を踏み出すシーンにはグッと感動させられました。驚き、泣け、そして主人公に成長感が感じられた部分が魅力的でした。