最優秀賞

なんてことはない

南雲一乃 / 著

【講評】

ピアノ演奏の高い技術を持ちながら男性講師への片思いをきっかけにピアノが弾けなくなってしまった高校三年生の千智と、サッカー部のエースながら怪我によって引退した同級生の友哉が、小学生にピアノを教える夏季ボランティアに参加するという設定の本作。

物語を通して描かれる「進路」という等身大の悩みもさることながら、ピアノ講師に抱く千智の恋心はとても繊細で、物語の世界にグッと引き込まれるほどの筆力の高さがありました。そして、千智が男性を好きであることを吐露するシーン、互いの弱さをぶつけあうシーンは、本テーマならではで、感動的に描かれていました。

作品全体の雰囲気や世界感にはエモさもありましたし、終盤で出てくる音楽家への例えは見事で、作品がしっかりと締まったと思います。文句なしの最優秀賞です！

優秀賞

雨のあと、顔に泥塗る僕たちは

梅野小吹 / 著

【講評】

事故をきっかけに記憶喪失になった高校生の主人公は、高校に通わず働いている同じ歳の青年と出会う。記憶喪失のことを気にせず話せる唯一の友達だと思っていたが、実は彼にはある秘密があってーー。本作は、主人公の記憶が戻ることによって、彼の秘密が暴かれる仕掛けが見事でドラマティックな作品でした。ふたりには共にいることが許されない禁断の設定が隠されています。その設定が明かされてもなお、主人公が彼といることを選択するラストのシーンは胸が熱くなりました。少し歪ででも特別な関係を築くふたりを応援したくなる作品です。

優秀賞

青色の夏、僕は君のとなりで息をする。

朱宮 あめ / 著

【講評】

特待生として高校に入学した柚月は、いつも“いい子”であろうと自分を押し殺して生きてきた。そんな柚月が出会ったのは、同じ特待生ながら自分とは真逆、いつも自由奔放な振る舞いをする三石コウだった…。まず設定がキャッチーでわかりやすく、展開もスピーディーで最初から惹きこまれて読むことが出来ました。柚月の人物造形も優れていて、彼の悩み葛藤が具体的でリアリティを持って描かれていたからこそ共感できるし、コウとの出会いをきっかけに変わっていく彼の姿に勇気を貰えました。王道の青春小説として面白かったです。その一方で、“男の子二人設定ならではの要素”が少ない印象で、そこがより沢山入っていると、より今回のテーマに沿う作品として魅力的になったのではないかと思います。