……できるわけないじゃん。

毎回頑張って江里乃の口調を観察し、それっぽいつもりの返事をしている。うまくいっているのかどうかはわからないけれど、今のところは大丈夫っぽい。

でも、メールとなれば無理でしょ。
メルアド教えるわけにはいかないし、かといって自分の教えるとか、無理!


ここは……スルーするしかない。
最後の2行は見なかったようにしよう。っていうか見なかった。そう、見なかった。

よし、とひとり勝手に納得したように頷いて、制服のポケットにノートを突っ込む。


江里乃のふりをしてやりとりを始めて、そこそこの日が過ぎた。ノートも半分くらいは埋まっている。短いやりとりだけれど、少しずつ会話が自然になってきて、楽しんでいるのが自分でもわかる。


……楽しんでいる場合じゃないんだけど。


いつまでもこんなことしてちゃ、だめだ。

江里乃と瀬戸山をハッピーエンドに導かなくちゃいけないんだから。やりとりを始めてしまったからには、せめて。

ちょっと寂しいと思うのは、楽しかったから。
知らない人のことを知っていくのは楽しいから。それが全く接点がなかった上に、私とは合いそうにもなかった人だったから。

うん、それだけだ。